Box Office : 2010年12月第2週の興行レポート-ジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーが共演のリメイク・スリラー「ザ・ツーリスト」のスリルを欠いた観光旅行が絶不評で沈没!!
by
Billy
2010年12月13日月曜日
ジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーという、現在の映画界で最もパワフルな男女の2大スターが共演を果たした「ザ・ツーリスト」は、ソフィー・マルソーが主演したフランス映画「アントニー・ジマー」(2005年)のリメイクです。なので当然、そのオリジナル映画をご覧になった方は、物語の結末のオチを知っているわけですが、そうでない方は以下の文章から、「ザ・ツーリスト」が最後に用意している、その大ドンデン返し…と言うよりも、ただのでんぐり返し?!みたいなエンディングのネタバレを察することが可能だと思います。
これから「ザ・ツーリスト」を観ようと思われる方は、その点をご了承のうえで、記事をお読みください。
今年2010年はお互いに、「アリス・イン・ワンダーランド」と「ソルト」を興行的に大成功させているアンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップの2大スターが共演を果たしたのだから、大ヒットしても、おかしくないはずの「ザ・ツーリスト」を、配給のソニー・ピクチャーズが全米2,756館の約3,400スクリーンで封切った結果のオープニング成績は、たったの約1,700万ドルで、まったくの期待ハズレとなってしまいました…。
「ザ・ツーリスト」が売り上げた、そのガッカリのオープニング成績=約1,700万ドルというのは、同じように男女のスターが共演した作品として、アシュトン・カッチャーとキャサリン・ハイグルがコンビを組んだ、日本で現在公開中の「キラーズ」よりはマシであるものの、そもそも本作に主演するはずだったトム・クルーズが、キャメロン・ディアスと遅すぎる再共演を果たした「ナイト&デイ」には、皮肉なことに負けてしまっています…。
「キラーズ」(2010年6月4日公開/製作費7,500ドル)
オープニング成績/1,583万ドル(2,859館) 国内/4,705万ドル+海外4,559万ドル=9,265万ドル
「ナイト&デイ」(2010年6月23日公開/製作費1億1,700ドル)
オープニング成績/2,013万ドル(3,098館) 国内/7,642万ドル+海外1億8,498万ドル=2億6,140万ドル
ジョニデとアンジーの「ザ・ツーリスト」の失敗は、とどのつまりが映画のデキの悪さ…のひと言に尽きるようです。本作のメガホンをとったのは、映画監督デビュー作にして、いきなりアカデミー賞最優秀外国語映画賞の栄誉に輝いたドイツ映画の名作「善き人のためのソナタ」(2006年)のフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督ですが、製作が本格化する前に一度、同監督を降板させた製作者らの判断は正しかったようで、それをスターパワーで覆したアンジーを含む、「善き人のためのソナタ」に感動した映画ファンの期待を完全に裏切ってしまったような結果となりました…。
映画の格付けサイト RottenTomatoes において、20%の支持率で“腐敗映画”にレッテルづけられている本作は、レビューのとりまとめサイト metacritic では、33件のレビューのうち、ホメているのは4件だけで、19件がまぁまぁ、そして、10件がクソ映画としていることから、トータルスコアを38ポイントとし、こんなものにお金を払う価値はない危険なレッドゾーンに置いています。
具体的な「ザ・ツーリスト」の問題点としては…、組織の経理をまかされた金庫番でありながら、不正な裏工作を働き、大金の7億4,400万ドルを盗んだことがバレて、逃亡したアレクサンダー・ピアースは、自分が整形で顔を変え、その新しい面が割れていないのをいいことに、アンジェリーナ・ジョリー扮する妻のエリースに、自分を追う警察や組織が、背格好の似た赤の他人を自分だと思い込んで、事件に始末をつけるよう、オトリを仕立て上げる撹乱の指示を手紙で下します。そして、パリからヴェニスに向かう列車に乗り込んだアンジーは、見た目がジョニー・デップであること以外は平凡な、コミュニティ・カレッジの数学教師であるアメリカ人の旅行者フランクに目をつけ、フランクがあたかも夫のアレクサンダーであるかのように振る舞うことに…。
と、そこからは“間違われてしまった男”として、ジョニデのフランクが警察と組織の両方から追われることになるわけですが、そうした本来なら、ヒッチコック映画のようにサスペンスに満ちてよいはずの展開が、この「ザ・ツーリスト」では、単に舞台のヴェニスの美しい景色や、アンジーの豪華な衣装を見せるにしか過ぎないだけの抑揚を欠いた演出に終始する観光映画?!として観客を退屈させ、挙げ句の果ては、いったい、それまでの物語に、どんな意味があったのか…?!と首をかしげたくなるようなオチへといたることになります。
逃亡中の夫からの手紙をカフェで優雅に読むアンジェリーナ・ジョリー!!
アンジーが、ポール・ベタニー率いるスコットランド・ヤードに監視されていることを知りながら、ご丁寧に自分の名前の入った便箋で、お手紙するなんて…ッ!!
アンジーがジョニデを逆ナンし、ふたりが出会う陳腐な場面…!!
そのアホくさいオチは、この「ザ・ツーリスト」のシナリオを、ドナースマルク監督と一緒にリライトしたのが、「ユージュアル・サスペクツ」(1995年)のクリストファー・マッカリーですよ!!、あの「ユージュアル・サスペクツ」のクリストファー・マッカリーですよ!!、ケヴィン・スペイシーが大ドンデン返しを演じた「ユージュアル・サスペクツ」のクリストファー・マッカリーですよ!!、と、とにかく、「ユージュアル・サスペクツ」ですよ!!と、本作が「ユージュアル・サスペクツ2」であるかのように連呼すれば、あぁ、そういうことか…と、たいていの映画ファンの方は、オチがドンデン返しではなく、でんぐり返し…の意味をお察しいただけるはずだと思います。
ポール・ベタニーに尋問されるジョニデのフランク…!!
↑ 「ユージュアル・サスペクツ」ですから…!!
このウルトラ失敗作の「ザ・ツーリスト」の製作費として、ソニー・ピクチャーズは約1億ドルを費やしていますから、前述のアクション・シーンを売りものにした「ナイト&デイ」よりは安く仕上げられたことになります。で、本作と同じくオープニング成績がパッせず、北米での興行は失敗に終わった「ナイト&デイ」ですが、先にあげた興行成績をご覧いただければ、同映画がスターの知名度を利用して、売り上げ全体の約7割を海外で稼ぎだしていることがわかります。それどころか、実のところ、「ナイト&デイ」は製作・配給の20世紀FOXにとっては、今年2010年に公開した映画の中で、最も成功した、同社内での№1ヒット作となっています。
よって、アンジェリーナ・ジョリーとジョニー・デップという現代最高の映画スターのペアを贅沢に起用した「ザ・ツーリスト」も、その完成度が平日の午後に再放送してる火曜サスペンス劇場級とは言え、諸外国で人気を集めて、北米での失敗を補い、最終的には黒字になる可能性が高そうですね…。
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督のハリウッド進出が失敗に終わったのは残念でなりませんが、また本人の作家性に適応した、新たなプロジェクトに挑んでもらえれば…と願います。
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