先週の月曜日(8日)にアップしたロバート・ダウニー・Jr主演の最新作「シャーロック・ホームズ」(3月12日公開)のレビューが好評だったCIAパリ支局の豆酢さんが、フランスでも先週に公開されたベニチオ・デル・トロ主演のジョー・ジョンストン監督最新作のモンスター・ホラー「ウルフマン」を早速、調査に出かけてくれました…!!
今作が、約1年もの間お蔵入りの憂き目に遭った理由はなんだったのだろう。
映画観賞後、いくつかの可能性を考えてみた。
①今作のメガホンを取った“ジョー・ジョンストン”とは、「ロケッティア」「ジュマンジ」などのジョー・ジョンストン監督(→)とは同姓同名の別人だった。
②いやいやそうではなくて、ジョー・ジョンストン監督は今作製作時、一時的に精神錯乱状態にあった。
③某ハーレクインロマンス系吸血鬼映画を観た今作のプロデューサー陣が、軟弱な吸血鬼と女子高生を取り合うようなチンケな狼男なんぞ、“ウルフマン”を名乗る資格なし!とばかりに、今作を新たに編集し直してしまった。
④“魔界からやってきた脚本家”こと、アンドリュー・ケヴィン・ウォーカー(今作の脚色も担当、他の作品に「セブン」「8mm」などがある)の呪いのせい。
…果たして正解はどれ(笑)?
19世紀末の英国。アメリカで人気俳優となっていたローレンス・タルボット(ベニチオ・デル・トロ)は、兄ベンの婚約者グウェン(エミリー・ブラント)からの手紙によって久しぶりに帰郷する。
陰鬱で広大な荒野ブラックムーアのはずれに建つ、領主タルボット家の城がローレンスの生家であった。
陰鬱で広大な荒野ブラックムーアのはずれに建つ、領主タルボット家の城がローレンスの生家であった。
グウェンの手紙によると、ここ何年もの間、村を震撼させている“ウルフマン”の捜索に参加したベンが、以来消息を絶っているということであった。
ブラックムーアには、数年前からジプシーの一団が住みつくようになり、村人達としばしばトラブルを起こしていた。
彼らがもたらした妖しげな民間伝承が、ウルフマンによる殺戮事件を助長していると信じる人々が多いからだ。
おまけに、タルボット城主、すなわちローレンスの父親ジョン(アンソニー・ホプキンス)が、ジプシーの女性を妻に娶ったこともあり、村人達のジプシーとタルボット家への不信感は募るばかりであった。
彼らがもたらした妖しげな民間伝承が、ウルフマンによる殺戮事件を助長していると信じる人々が多いからだ。
おまけに、タルボット城主、すなわちローレンスの父親ジョン(アンソニー・ホプキンス)が、ジプシーの女性を妻に娶ったこともあり、村人達のジプシーとタルボット家への不信感は募るばかりであった。
そこへ舞い戻った“よそ者”のローレンスは、程なく、バラバラに引き裂かれた兄の遺体と対面する。
到底人間業とは思えぬ遺体の様子に違和感を覚えたローレンスは、遺体のそばに落ちていたという黄金のメダルを手がかりに、ウルフマンの正体を調査し始める。
到底人間業とは思えぬ遺体の様子に違和感を覚えたローレンスは、遺体のそばに落ちていたという黄金のメダルを手がかりに、ウルフマンの正体を調査し始める。
ジプシーを治める女マレーヴァ(ジェラルディン・チャップリン)の元を訪れ、ウルフマン伝説の詳細を訊ねようとしたローレンスは、村人達によるウルフマン狩りの集団から襲撃を受ける。ウルフマンを怖れるあまり、ついに我慢の限界に達した村人達が、ジプシー達を焼き討ちにしようとしたのだ。そこへ本物のウルフマンが現れ、人々を血祭りにあげてゆく。( ↓ 動画をご覧ください)
ライフルを手にとったローレンスもウルフマンに咬まれ、瀕死の重傷を負ってしまった。だが、マレーヴァの手当てで一命を取りとめ、彼は城に帰って来た。悪夢のようなビジョンにうなされたローレンスは、やがて、自分もまたウルフマンになってしまったことを悟る。
いつしか心を通わせるようになったグウェンに危険が及んではいけない。早急に彼女をロンドンに帰したローレンスであったが、ある明るい月夜、父ジョンに導かれるように、ついにウルフマンに変身してしまった。そんなローレンスをなぜか冷ややかに見つめるジョンは、モンスターをわざと城外に解放する。そして、ブラックムーア中に断末魔の悲鳴が響き渡ることになった。
翌朝ジョンは、殺戮の限りを尽くした息子を、スコットランドヤードから派遣されてきた警察官アッバーリンに引き渡した。父の不可解な行動を理解できないローレンスは、なすすべもなくロンドンに移送されて拷問を受ける。程なく、刑務所に息子を訪ねてきたジョンは、ある忌むべき事実を話して聞かせるのだった…。
1941年の作品「The Wolf Man(邦題「狼男の殺人」、「狼男」)」(ロン・チェイニー・Jr主演)のリメイク作にあたるそうだ。英国の荒野の陰鬱な雰囲気といい、ローレンスが心ならずも戻ってくるタルボット城の荒れようといい、背景の雰囲気はとてもいい。
ローレンスと父ジョンがなぜ何年もの間音信不通であったかも、“母の非業の死”をひとつのヒントとし、オリジナル作よりうまく脚色できていたように思う。また、兄ベンの存在を介して、ローレンスとグウェンが次第に歩み寄っていく流れも自然。
ただ、非常に残念なのは、最近の映画の風潮なのか、やたらとストーリー展開が早いこと。そりゃローレンスを早いとこウルフマンに仕立て上げねばならんのだから、物語の説明は最小限にしてでも、早く先へ…という気持ちもわからないではない。
しかし、ローレンスの苦悩の大部分は身勝手な父親ジョンとの確執にあるわけで、その辺りの描写をもっとじっくり描いてもよかったのではないか。
それから、せっかく“ジプシー”が登場しているのだから、ウルフマンの伝説に絡め、閉鎖的な村社会にありがちな“よそ者排除”の考え方をもう少し強調して欲しい気もする。
アンソニー・ホプキンス、ベニチオ・デル・トロというオスカー役者を競演させているにもかかわらず、演じるキャラクターに深みも何もなくては、演技のしようもないだろう。実にもったいない話である。
その意味では、今回、悲劇のヒロインとして登場するエミリー・ブラントのグウェンも、極めて地味な存在感に終始してしまった。彼女の扱いが軽すぎるのも今作の弱点のひとつ。
まあ、文句ついでにもうひとつ難点を挙げるとすると、ダニー・エルフマンによる音楽がうるさすぎること。始終がなりたてるようなスコアが背後に流れ続けており、ただでさえせわしないストーリーが、余計にせかせかした印象になってしまった。
静と動のコントラストをはっきりさせる演出が、今作のようなサスペンス・ホラーには必須だと個人的には思うのだが、音楽もまたその法則に従うべきではないか。
ことほどさように、今作についてはいろいろ不満もあるのだが、感心したのは…、
(以下はネタバレの要素があるので、読みたい方だけハイライトして、お読みください)
“いったん狼男に変貌した人間は、絶対に元には戻らない”という原則を守っている点だ。ヒロインの真実の愛の力だの(笑)、ヒロインの清い涙だの(再笑)といったもので、ウルフマンを救うことなどできはしない。アンドリュー・ケヴィン・ウォーカーは、“ひょっとしたら…”という淡い希望を垣間見せておいて、最後の最後に観客を絶望のどん底に突き落とすストーリーを構築した。やはり、ホラー作品はこうでなくては。 by 豆酢(「豆酢館」)
Billy's comment: この「ウルフマン」のオープニング成績=約3,062万ドルは、その数字だけを眺めれば、R指定で視聴制限があることも考慮して、そんなに悪くはない、そこそこの数字を収めた…と言えそうですが、豆酢さんも指摘してくれたように、本来はおととし2008年11月公開予定だったのが、製作の遅れや、宣伝マーケティングの都合で、計4回も封切りが先延ばしされ、その間に編集者がコロコロと入れ変わるなど、改変に改変の手直しが加えられたことで、製作費が約1億5,000万ドルの超大作級にまで膨張してしまっています…。その湯水のように使われてしまったお金を考えると、そこそこの数字ではダメなんだ…というのは、言わずもがなですね…。
なお、「ウルフマン」に最初にアタッチされた監督は、近年のアメリカ映画の最高傑作の1本である「ワンアワー・フォト」(2002年)の寡作の天才マーク・ロマネクでした。マーク・ロマネクなら、どんな狼男を描いていたのでしょう…?!
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