第7回 ハイ、サリー!!、カンヌ目前!!、完成急ぐタランティーノを支える裏方バスターズと、また響かなかったマカロニ・ウェスタンの旋律…。
映画秘宝2009年6月号掲載(2009年4月21日発行)
昨2008年5月のカンヌ映画祭で公約した戦争映画「イングロリアス・バスターズ」の1年後の同映画祭での上映が来月に迫り、ラストスパートのタランティーノ監督が編集室にこもって音沙汰なしなので、今回はこれまで紹介できなかった「イングロリアス・バスターズ」の裏方や、逸話を紹介しておきます。
まず、2月初旬に撮影が終わったフィルムを4月末までの2ヵ月間で編集するのは“ハイ、サリー!”のサリー・メンケです。彼女はタランティーノの全作品を編集し、仕上げのアドバイスを与えているタランティーノの懐刀で、彼女抜きにタランティーノ映画は完成しません。そのため俳優たちは撮影でNGを出すとカメラに向かって“ハイ、サリー!!”と呼びかけ、サリーに手間取らせるお詫びや、撮影現場のグチを語るなどジョークを発することになっています(↓ 動画)。兵隊やくざたちもきっと何度もサリーに語りかけたことでしょうね。
サリーにフィルムを渡したカメラマンは、「キル・ビル」でコンビを組んだロバート・リチャードソンです。「キル・ビル」で物語の展開に応じて映像のトーンを変えたいと思ったタランティーノはカメラマンを3人雇うつもりでした。
しかし、オリバー・ストーン監督との名コンビで知られ、アカデミー賞4回ノミネートのうち、「JFK」でオスカー獲得のリチャードソンなら、自分の要求に応えられると考え、面談に臨んだところ、リチャードソンが「キル・ビル」の参考になるカンフー映画を5本、タランティーノの前で例にあげ、それらのカンフー映画の趣味がタランティーノとピタリ一致したことで意気投合した間柄です。タランティーノとリチャードソンは、全体が5つの章に分かれた「イングロリアス・バスターズ」でも、各章で異なったトーンの撮影を行い、章ごとが違う映画に観えるように作っています。
その5つの章のうち第1章のタイトルは、「ワンス・アポン・ア・タイム…ナチ占領下のフランスで」ですが、これはタランティーノが敬愛するマカロニ・ウェスタンの巨匠セルジオ・レオーネ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン…」シリーズの題名を引用したオマージュです。それにかこつけてか、レオーネ監督とコンビを組み、マカロニ・ウェスタンのイメージを決定づける音楽を作曲したエンニオ・モリコーネに、タランティーノが「イングロリアス・バスターズ」の音楽を依頼したというニュースが昨年11月にイタリアで報じられました。
タランティーノとモリコーネは、過去にタランティーノが「パルプ・フィクション」の音楽をモリコーネに依頼するも断られ、「キル・ビル」では反対に作曲を申し出たモリコーネをタランティーノが断っています。と言っても両者に遺恨がある訳でなく、タランティーノは「キル・ビル」のサントラを、既存の曲を使う自分のいつものやり方のジュークボックス・スタイルで仕上げることにしただけで、モリコーネの過去の曲も採用したのはご承知の通りです。
タランティーノがモリコーネに「イングロリアス・バスターズ」の音楽を依頼?はあり得る話ですが、タランティーノは「イングロリアス・バスターズ」も既存の曲を使い、作曲家を起用しないと以前から述べています。よって、イタリアのニュースは少し眉唾でしたが、急ピッチ製作の「イングロリアス・バスターズ」のペースに80歳のモリコーネが「時間がなさすぎる…」と、タランティーノの仕事を再び断ったと結論づけられているので、いずれにしろタランティーノとモリコーネの本格的なコラボはまた実現しませんでした…。
最後にもう1人、タランティーノ映画に欠かせない人物として、「パルプ・フィクション」の殺し屋ジュールスことサミュエル・L・ジャクソンが「イングロリアス・バスターズ」のナレーションをつとめることになりました!!、お呼びのかからなかったサミュエルが電話で、俺の出番を作れ!とタランティーノにせがみ、苦肉の策としてナレーターで折り合いをつけることになりました。あの“マザーファッカー!!”の雄叫びが「イングロリアス・バスターズ」の戦場でもこだましそうですねッ!!
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