おとついの水曜日(12日)にアップした、レネー・ゼルウィガー主演のチャイルド・ホラー「ケース39」(2006年撮影)がアメリカで公開されるメドが立たない…という記事の中で、少しだけMPAAについてふれました。
日本語でアメリカ映画業協会のMPAAについては、これまでもセス・ローゲンとエリザベス・バンクスが共演したケヴィン・スミス監督のコメディ映画「ザックとミリ」(2008年)のタイトル問題など、事あるごとに言及してきましたが、アメリカ映画を語ったり、考えるうえにおいては、どうしても、MPAAの存在は無視できません。しかし、MPAAとは何なのか?!という、その実態を具体的に紹介した資料としてリンクできるようなサイトも日本語では見当たらず、記事にMPAAが出てくるたびに、いつも説明不足のような気にさせられていました…。
そこで、映画秘宝MOOK「ショック! 残酷! 切株映画の逆襲」(2009年6月2日洋泉社発行)に、ぼく映画諜報部員ビリーが執筆した原稿「アメリカの映倫MPAAの正体」を、参考資料としてあげておくことにします!!、ただし、文章が長いので、前編の(Ⅰ)と後編の(Ⅱ)に分けました…!!
すでに読まれた方も、初めての方も、お楽しみくださいッ!!
もし、あなたがハリウッドのホラー映画監督だとして、これからカメラの前で女優を殺す場面を撮るなら、どのような演出をされるだろう。観客をよろこばせ、映画をヒットさせるために盛大な血しぶきをあげてみる?、サービスで女優を裸にする?、それとも汚い言葉で彼女を罵りながら斬り刻む?、どれもよさそうだが、いずれを選んでも、あなたは映画監督としてピンチに立つかもしれない。なぜなら、あなたの映画はMPAAに阻まれ、映画館で上映されない可能性が高いからだ。
あなたが観たいと思う過激なホラー映画を邪魔をするMPAAとは、アメリカ映画業協会(Motion Picture Association of America )という、ハリウッドの大手映画スタジオ6社(ワーナー・ブラザース、パラマウント、ユニバーサル、20世紀FOX、ディズニー、ソニー)が中心となり組織してる業界団体だ。
アメリカ映画の海外振興や、業界内の紛争解決、また最近は海賊版の撲滅で大きな成果をあげるなどMPAAの仕事は多岐に渡るが、最もよく知られるのが日本の映倫にあたる映画審査機関としての顔である。
一見しっかりした業界団体だけに審査は信頼できそうだが、実は常に多くの疑問が浴びせられ、首をかしげたくなるような問題が起きている。なぜ、あなたの想像のホラー映画はダメなのか?、その真意を問いただしてみよう。
まず、MPAAの映画審査は内容により等級のレート別に分類することから“レイティング”と呼ばれている。このやり方は1966年に、時のジョンソン大統領の補佐官だったジャック・ヴァレンティがMPAAの会長に就任し、考案したシステムだ。
それ以前は1930年から定められた「ヘイズ・コード」と呼ばれる倫理規定(MPAAの前 身MPPDA=アメリカ映画製作配給業者協会の初代会長ウィル・H・ヘイズに由来)が目安となる自主規制の枠組みとして存在していた。しかし、時代の変化でヘイズ・コードの価値観が廃れ、弊害が多くなったことから、それに代わる合理的な仕組みとして、1968年に4つのカテゴリーからレイティングがスタートした。
①内容が公けに支障なく、誰が観てもかまわない一般向けの“G“。
②過激要素を少し含み、子供の視聴には保護者の配慮が必要だという“M”。
③16歳未満は要保護者同伴の“R”。
④17歳未満視聴禁止の言うなれば成人指定の“X”。
この基礎の4パターンは後に、“M”が“PG”となり年齢制限が1歳上がって17歳未満要保護者同伴に変わったほか、“X”も“NC-17”に改名され、1984年7月に5つめのレート“PG-13”が追加された。
PG-13は13歳未満の児童には適さない内容を含むという意味で、従来のPGを2分化したものだ。このPG-13誕生は、発効された同年5月に全米公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督の「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」(↓写真)と、続けて6月に封切られた同監督製作の「グレムリン」とが、共にPG指定だったものの、観客の親たちから子どもらに見せるには過激な場面が多かったと苦情がMPAAに殺到したことに端を発している。
言わば、ヒットメイカーの人気監督スピルバーグが槍玉に上げられた訳だが、スピルバーグ監督はヴァレンティ会長に直談判し、そもそもPGが就学前の幼児から高校生までを対象とする年齢幅の広すぎる欠陥を指摘して、中間的な新基準PG-13を作らせてしまった。
スピルバーグ監督の指摘は尤もだが、それでも一監督の要求がスンナリ通るのには、金のなる木のスピルバーグ映画に多少でも視聴の制約をつけたくないという大手映画スタジオの本音が窺える。映画会社が自分たちでMPAAを組織してる以上、倫理より利益を優先することがあっておかしくはなさそうだ。
ちなみにPG-13に指定された最初の映画は同年8月に公開された「若き勇者たち」だ。当時のソ連軍がアメリカ本土に侵略戦争を仕掛けてきたのを高校生が迎え撃つというタカ派な青春映画だった。
スピルバーグ映画への配慮からもわかるようにレイティングのハードルが低いほど潜在的な観客層は増し、映画はヒットしやすい。だから、映画会社や監督は表向き何を語っても、このレイティングを意識しながら映画を作っている。
例えば、1973年の夏に連日35度を超える猛暑のテキサスで、人間の皮で作ったマスクを被ったチェーンソー殺人鬼のホラー映画「悪魔のいけにえ」(↓予告編)を撮影していた監督のトビー・フーパーは現場から、MPAAにこんな電話をかけた。
「精肉工場で肉の塊を吊るす鉤針に若い女性をブラ下げるんだけど、どうすればPGになる?」、フーパー監督は自主製作の「悪魔のいけにえ」が無事に製作費を回収できるように、16歳未満のローティーンも事実上、自由に観られるPG映画に仕上げたかった。そのため審査で厳しくチェックされそうな場面をあらかじめMPAAのガイド ラインに沿って撮ろうとしたのだ。電話口で長く待たされたフーパー監督が得た回答は、「鉤針が体に刺さるのを直接写さない」、「流血はダメ」、「そうしたことが行われたという、ほのめかしにとどめなさい」の3点だった。
フーパー監督は、わかった、そうするとMPAAに告げ、その場面を言われた風に撮ったが、完成した映画に与えられたのはR指定だった。
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